INTERVIEW

#2 Healthcare Business 「おもしろい!」を誘発する、リーンに作るヘルスケアサービスの価値体現

ただモノやサービスをつくる時代は終わった。心震わす感動体験を生み出す。それこそが今あらゆる領域で、支持される必要条件となっているからだ。
そんな視座の高いものづくりを実現する役割がプロダクトマネージャーである。

DeNAで活躍する彼らは、日々どんな仕事をしているのか。一方でプロダクトマネージャーと接するエンジニアのメンバーたちは、彼らとどのように接しているか。そして、理想のプロダクトマネージャーとは――。
ヘルスケア事業本部のプロダクトマネージャー、加古萌と、エンジニアリングマネージャーの弘島晃が語り合った。

エンジニアをその気にさせるのがうまい

弘島加古さんと私は同じヘルスケア事業本部で、プロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーの関係。直近でも8月に、健康保険組合に提供しているヘルスケアエンターテインメントアプリ「kencom」のユーザーに向けて、ダイエットアプリ「みんなでやせ活」をローンチさせたばかりです。

加古はい。「みんなでやせ活」は数名のチームを作り、各自が体重を記録してチームにシェアするのが基本の使い方。ゲーミフィケーションの要素を取り入れたイベントもありますが、何より数名のメンバーがコミュニティ機能を使ってダイエットに関するコンテンツを共有することで、自然とチームのメンバーに引っ張られ、それによってダイエットが続く“ピア・プレッシャー“を活用したプロダクトです。

いわゆるMVP(Minimum Viable Product)としてリーンに作っているので、まだまだこれからもブラッシュアップが必要。エンジニアのみなさん、よろしくおねがいします!

弘島こちらこそ! 加古さんが、僕からみてすごくいいな、上手だな、と思うのが、そういった声がけなんですよね。

加古どういうことですか?

弘島プロダクトを磨き上げるための方向性や狙いは、データを集めてロジカルに組み立てて共有してくれる。そのうえで「お客様に絶対にこう感じてほしい!」と熱量の高いやる気を感じさせる言葉も、バランスよく投げかけてくれる。

だからエンジニアたちはみなうまく“のせられて“しまう。

加古ほめていただいていると信じます(笑)。個人的に、プロダクトに関わるメンバーをワクワクさせることは、プロダクトマネージャーの最も大切な役割の1つだと考えています。おもしろい! それいいと思う! の共感がチームの中で生まれてこそ、プロダクトの価値を最大化させられるのかな、と。

ゲームでの経験が、
プロダクトマネージャーのベースにある

弘島「おもしろい!」はエンジニアのモチベーションとしては大きいですよね。

加古DeNAはエンジニアやデザイナーが初期のタイミングから一緒になってひとつのプロダクトを共創することが多い。だからこそ、最初から「おもしろい!」と感じてもらい、プロダクトに対し自分ごととして向き合える状態が作れなければ、それぞれのノウハウが宝の持ち腐れになると考えているんです。

弘島なるほど。そういう意味で、プロダクトマネージャーである加古さんが、周囲のメンバーをワクワクさせて、「おもしろい」と感じてもらうため、意識していることってあるんですか?

加古1つは細部まで「整理しすぎない」ことですかね。

弘島整理しすぎない?

加古はい。自分の信じている価値は熱情を込めて伝えます。けれど、その価値を実現するためにはどういう可能性があるか、どんなアウトプットが考えられるかは、自分1人で考えるよりもチーム全員が自分ごととして考えた方が絶対にいい。そう考えると、細部まで整理しすぎず、余白を持たせた状態でチームに渡したいんです。

弘島「やせ活」でも、最初にすごく軸の部分、具体的には「チームによるピアプレッシャーを利用して、ダイエットを楽しくスムーズにできたらいい」というのは熱っぽく語ってくれましたよね。

加古はい。エンジニアもデザイナーも、それぞれのスペシャリストですから。そのほうが、価値が研ぎ澄まされていくという確信がある。踏み込みすぎると、きっとおもしろい、とは感じづらい。とくにDeNAのメンバーはそういう人が多い気もするんです。

弘島確かに。具体的な事例を、まったく別のところから持ってきて話したりもしてますよね?

加古軸や価値を抽象度高いまま理解してもらえたら、別の具体的な事例を並べることで、価値自体の解像度を上げてもらうことを考えています。

たとえばピアプレッシャーが発生するには、チームにおけるコミュニティが活性化することが必要だと考えているのですが、コミュニティが活性化するためには、その種となるコンテンツが重要なんです。

そのコンテンツの意義なども、具体的に日常で共感できる例をあげて話しましたね。たとえば、「SNSで食べ物の投稿をすると、コメントが盛り上がることが多いですよね。あれはきっと食べ物というコンテンツが共感を得やすいからだと思う」とか、あるいは「たとえば会社の同僚である弘島さんが食卓の写真をアップすると、そこに写るテーブルクロスの柄を見て『奥さんのセンスいいなあ』とか、少しプライベートな生活をのぞき見た感じがしてニヤニヤしちゃいません?」など。

弘島いろんな事例をあげられると、段々と最初にあげた軸や狙いがむしろ明確になりますよね。こうした巻き込み方は何から得たものなんですか?

加古以前いたゲーム事業部のころに培われました。ゲームづくりはお客様みなさんの“感情“をものすごく重視する。「ここにこういうアクションがあるとぐっと盛り上がる」「こんなイベントが発生すると一気に離脱してしまう」と、人間心理をベースにプロダクトを設計し続けていた。それが血肉になっている気がします。

“感情”って主観的なものでもあるので、場合によっては議論が空中戦になるんです。「俺は違う」「そんなはずがない」と対立したり。けれど、しっかりとお客様に届けたい価値を根っこの部分で共感したうえで互いの主観を出し合うと今度は、逆にうまく議論がドライブする。不思議とそうなるとお客様に支持されるゲームができるんですよ。

弘島今の話でもお客様のことをいつもしっかり見て、考えているじゃないですか。「お客様が使ってみてどう感じるかな」というまっすぐな意識がチームメンバー、エンジニアやデザイナーにもやっぱり伝わってくる。だから、メンバーがみなのせられる。結果としていいプロダクトが生まれる気がします。

加古お客様の視点に立つ意識はとても強いですね。これはプロダクトマネージャーに欠かせない要素で、プロダクトの価値に直結する視点です。だからこそ、会社としてこの役割を重視しているのは、非常に大きな意義があると感じています。

弘島うん。エンジニアだと、ときに不必要に過剰な機能を実装して、結果、バランスの悪いプロダクトが生まれることがある。もちろんお客様にも支持されない。質の高いエンジニアが揃っていても、ありえることですからね。

何度も失敗できる、
プロダクトマネージャー体制を
つくりあげたい

弘島ユーザー視点を得るために、普段から意識していることはありますか?

加古「このプロダクトはなぜイケているのか、イケてないのか」を必ず言語化するようにしていますね。

弘島おもしろい。どういう意図で?

加古プロダクトマネージャーをしているとプロダクトの運用がはじまってからリアルなお客様の声が聞こえてくる面もある。「この機能はすばらしい」「この機能はだめすぎる」「こんなものいらない」と反響があるので。

それをしっかり深堀りして、理由までみえてこないと本質的なカイゼンができない気がするんです。「そう判断した裏にはどんな感情があったのだろう」と、意見のその先というか手前にある感情にたどり着きたいというか。

そこまでいかないと、せっかくの貴重な意見や知見が私の中に蓄積されない。次のプロダクトにも活きないと考えているんです。

弘島なるほど。プロダクトの良し悪しを言語化するクセをつけておくとお客様の感情に近づくための訓練にもなるわけですね。

加古はい。最初にお話ししたメンバーとプロダクトの軸や狙いを共有するのも、こうした言語化の蓄積があるからかなと、自分では思っています。

弘島理想のプロダクトマネージャー像ってありますか?

加古ユーザー視点をもって、価値あるプロダクトを出し続ける。それはもちろんですが、加えてもっと高い視座で、事業を中長期的な視点で見据えながらプロダクト戦略を設計し、意志を持って舵取りできるのが理想ですね。事業とプロダクトはバディのようなものなので。

逆にいうと、近視眼的にしかものごとを見れないとプロダクトマネージャーは務まらない。そう自分にも言い聞かせていますね。弘島さんはどう思われます?

弘島やはりデザイナー、エンジニア……すべてのメンバーの真ん中に立ちながらお客様みなさんに最高の価値を提供する。そしてリーダーシップを発揮しながら決断をし、仕事をやりきれる存在かなと思います。

加古ハードルが高い(笑)。

弘島ただ100%を求めることはない。プロダクトマネージャーは決断が仕事だからこそ、失敗を許容しないと駄目だと思っているんです。「失敗したくない」という思いで決断をすると、それは絶対つまらないプロダクトにしかならない。挑戦ができない。

むしろ失敗したらまたやりなおせばいい。改善してもっとよくすればいい。そんな思いも共有し、プロダクトマネージャーには全力で挑戦してもらいたいと思います。

加古そうですね。失敗を恐れず大胆に挑戦し、改善を重ねることでお客様に最高の価値を届けたいという人に、どんどん出会っていきたいですね。そして多くの失敗と成功を共にし、世の中へのインパクトを一緒に生み出していきたいです。

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