INTERVIEW

#1 Automotive Business オートモーティブ事業のモノづくりを通じて、世の中に価値をインプリする喜び

ただモノやサービスをつくる時代は終わった。心震わす感動体験を生み出す。それこそが今あらゆる領域で、支持される必要条件となっているからだ。

そんな視座の高いモノづくりを実現する役割がプロダクトマネージャーである。DeNAで躍動する彼らは日々何を思い、何に悩み、何を成し遂げようとしているのか――。

オートモーティブ事業本部プロダクトマネジメント部の部長であり、自身もプロダクトマネージャーである、黒澤隆由に聞いた。

本物のプロダクトマネージャーが集うチームをつくりたい

――オートモーティブ事業の領域でプロダクトマネージャーをされているそうですね?

黒澤はい。その中でも主に次世代タクシー配車アプリ「MOV」に軸足を置いてプロダクトマネージャーを務めています。

もっとも「MOV」ではタクシー利用者向けアプリのみならず、タクシー乗務員向けアプリをはじめとする車載機器、事業者が使うシステムなど多様なプロダクトを提供していますので、それぞれにプロダクトマネージャーがいて、私の仕事はそれを統括する位置づけです。

「プロダクトマネジメント部」には、プロダクトマネージャーに加えて、UXデザイナー、リサーチャー、データアナリストなどがいます。

――「プロダクトマネジメント部」という組織は、DeNAでは初めてだと伺いました。立ち上げた狙いは?

黒澤2つあって、1つはプロダクトマネージャーとしての力を最大限に発揮してもらえる環境を提供すること。もう1つは、プロダクトマネージャーを専門職としてしっかり評価し育成していくことです。

「プロダクトを通じてユーザー課題の解決と価値の創造を実現し、事業を成功に導く」が部のミッションなのですが、それはそのままプロダクトマネージャーのミッションにもあてはまります。

担当するプロダクトの機能、UI、デザインなどあらゆる面での意思決定を委ねられる職種ですので、責任は重大です。ときには誰も手をつけたがらないフィールドにも足を踏み入れて、泥臭く考え尽くして決断しなければいけません。

その重責ある決断が正しいか否かを相談できる仲間がいるかいないか、あるいは常日頃、同じように悩み奮闘している仲間同士で知見を共有できる環境が存在するか否かで、アウトプットの成功確度も、プロダクトマネージャーとしての成長も、大きく違ってきます。

――なるほど。昨今「プロダクトマネージャー」が話題となっていますが、DeNAでは、組織の土台からプロダクトマネージャーをしっかりと育てていこうと。

黒澤はい。日本はどうしてもゼネラリスト志向が強いですからね。プロダクトマネージャー的な役割を一定担いつつも、主には“プロジェクト”マネージャー的な役割をしている人や、比較的小さなプロダクトではビジネスリーダーやエンジニアリングマネージャーが兼務しているパターンなどさまざまです。海外IT大手ではプロダクトマネージャーを専門職としてアサインし、組織化しているケースが一般的だったりしますが、日本ではまだ少ない印象です。

余談ですが、私は製造業のエンジニアからキャリアをスタートさせ、その後、某IT系メガベンチャーでネットサービスのプロダクト開発を担当していましたが、とてもグローバルな職場環境でしたので、海外IT大手のプロダクトマネージャーがどのようなマインドセットで、どのような役割と責任を担っているのかを学びました。

事業の成功には優れたプロダクトの提供が不可欠ですが、プロダクトの強化には優れたプロダクトマネージャーが不可欠です。この課題感にまっすぐ向き合い、プロダクトマネージャーの強化に乗り出していたDeNAに、昨年からジョインさせていただきました。

――あえて伺いますが、プロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーの違いはなんでしょうか?

黒澤ごく一般的に言われることですが、プロダクトマネージャーは「なぜ(WHY)」「何を(WHAT)」つくるかに向き合う役割です。

お客様の課題をみつけて明確にする。「なぜ」それが必要かを見極め、そのうえで「何を」つくるかを考え尽くして、プロダクトを磨く。どんな機能にするか、どんな施策を打つか、具体的なカタチに落とし込む仕事です。

――プロジェクトマネージャーは?

黒澤「いつまでに(WHEN)」「どうやって(HOW)」つくるかに向き合い、プロダクトのデリバリーにコミットする役割です。価値あるプロダクトを世に出すゴールは同じですが、エンジニアチーム・メンバーと向き合い、リソース調整も含めて開発進捗を阻む障害物を取り除き、期日までにプロダクトを完成させることに使命を負う仕事です。

したがって、プロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーは、ときに相反することがあるわけです。

――「できるだけ良いものをしっかり!」というプロダクトマネージャーと、「まずはきっちりスケジューリングを」と考えるプロジェクトマネージャーの差ですね。

黒澤そうです。両方必要なんです。しかしこの両方を兼務すると必ず「妥協する」。だから、プロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーは本来しっかりとわけることが不可欠。両者のせめぎあいこそが、プロダクトをよりスピーディに磨き上げていくための大きなエンジンになるからです。

これ、いまの日本の課題でもあると思うんです。

――日本の課題?

黒澤日本企業はゼネラリスト志向が強く、1人で複数の役割を及第点+α で担うため、結果、アウトプットされるプロダクトの磨き上げが弱くなっていった。かつてはプレゼンスを発揮した日本製品がグローバルな競争で負け続けている理由の1つは、ここにあると考えられる。

我々DeNAがプロダクトマネージャー職を広く求め、専門職として分厚い層を育てて成功事例を積み上げていきたいと考えるのは、自社のプロダクトを強くするのみならず、日本の産業構造の課題感を解消していくきっかけになればと考えているんです。

――「プロダクトマネジメント部」にはUXデザイナー、リサーチャー、データアナリストなども所属しているとおっしゃっていましたが?

黒澤これはプロダクトマネージャーが常に客観的な情報をインプットしながら検討を進め、最終的なアウトプットの成功確度をチーム全体で上げていけることを目指した組織体制です。

誰もが「やればいい」と思うプロダクト改善は容易です。しかし、ただそれを繰り返しても勝てるプロダクトにはなり得ない。他社にも解決できていないお客様の課題や業界課題に取り組もうとすると難易度はグンと上がります。そんな難しい取り組みにおいても、いかに施策の成功確率を上げていけるかがプロダクトマネージャーにとってのチャレンジになります。

だからこそ、メンバーそれぞれの強みを最大限にストレッチし、チーム全体でカバーし合うことで安定的かつ継続的にアウトプットの成功確度を上げていくアプローチが重要になってくるのです。

UXデザイナー、リサーチャー、データアナリスたちもプロダクトマネージャー と同じミッションを共有し、高いマインドでより良いプロダクトの実現に取り組んでくれています。「餅は餅屋」。徹底的にスペシャリスト集団であることが、より強いプロダクトを生む必要条件だと考えます。

エモーションを胸に置き、
お客様と誠実に向き合う

――日々の具体的なお仕事は?

黒澤 「MOV」では多くのプロダクト開発が日々同時並行で進んでいますので、機能もUXもデザインも、何がベストかを考えて判断し、決断を積み上げています。

――決断の際、大切にしていることは?

黒澤プロダクトの「目的」をブラさないことです。エンジニアやデザイナー、ビジネスサイドからもフラットに意見を聞くことを心がけていますが、どれもそれぞれの現場では「正しい意見」なんです。しかし、すべての意見を受け入れたら、本来のプロダクトの価値がブレていく可能性が高い。だから何よりも「このプロダクトの目的は何か」を明確な軸として置き、それを妥協しないということですね。

――とても難しいことにも思えます。

黒澤はい。ただ、軸がブレ、妥協をした結果、お客様に不利益を与えてしまうことは絶対に避けなければなりません。そういう意味では、お客様への誠実さを試される。ちなみに、僕がよく意識することの1つに、左脳的なインプットをしたうえで、右脳的なひらめきで判断する、ということがあります。

――直感的に決める?

黒澤はい。当然、客観的なデータはインプットします。それをロジカルにまとめてプロダクトに落とし込んで社内レビューやユーザーインタビューをすると、皆さん「いいですね」「使ってみたい」という。きっと誰にとっても「左脳的に」納得感があるんですね。

それなら!と世に出すと、誰も使ってくれない。そんな失敗がこれまでにもありました。

――大勢の意見を生真面目にまとめた平均値は「誰にとっても魅力的じゃない」と。

黒澤そう。もちろん左脳的なデータ検証やインプットは不可欠。ですが、そのうえでプロダクトに落とし込むときの判断は、お客様が使っているさまが目に浮かぶところまで想像する必要がある。その上で最後の最後は「なんとなくこっちのほうがいい」というエモーショナルな判断をとても重視しています。

――「MOV」でいうと、エモーショナルな決断が功を奏した具体例は?

黒澤「MOV」はタクシー配車アプリですが、顔の見えないタクシー会社とお客様をつなげるのではなく、一人の運転手さんとお客様をマッチングする人肌感を大切にしたいと考えています。

タクシーを呼んだお客様は、どうしてもサービスを受ける側の意識が強くなり、ときに横柄になってしまうこともある。けれどそれが続くと、タクシー乗務員さまも「MOV」の配車依頼を気分よく受けられなくなります。「MOVの客はいやだな」と思われてしまったら、最終的にはお客様にとっても不利益になるんですよね。

「MOV」では「すぐに配車できる」シンプルなUXを大切にしていますが、加えて「人肌感」をいかに演出するかについても意識してUX設計しています。

――たとえば、お客様がタクシー乗務員に「赤い服を着てます」「家族3人です」などと待っている間にメッセージを送る機能は「MOV」ならではですよね?

黒澤まさにそういう機能です。事前にくわしく特徴を伝えれば「会えないリスク」が大幅に低減できる。同時に、それは会う前から人と人のつながり、肌感を感じられる。お互いに気持ちよくマッチングできるのでは、と考えて実装したものです。左脳的な裏付けよりも、右脳的に考えた結果ですね。

最近のユーザーインタビューでは、「MOV」を選ぶ理由として、その「使い勝手」や「使い心地」をあげてくださる声がとても増えています。こうした声を聞けたときが、プロダクトマネージャーという仕事の醍醐味を感じられる瞬間でもありますね。

――今後のビジョンは?

黒澤いまDeNAでは多彩な事業を手掛け、それぞれの事業で優れたプロダクトマネージャーが求められています。多様な強みを持つ、個性溢れるたくさんのプロダクトマネージャーが集う会社にしていきたいですね。

エンジニアにもデザイナーにもビジネスサイドにも、DeNAには本当に多くの優れたタレントがいます。それらを正しくつなげて、ビジネスの成功確率を上げていくコンダクターの役割を担うのがプロダクトマネージャーです。ビジネスの成功に必要なプロダクト開発は、決して楽しい案件ばかりではありませんが、目の前の事象だけにとらわれず、高い視座とオーナーシップをもって正しく前進してくれる人たちにジョインしてほしい。

DeNAであれば、世の中に数多くの新しい価値をインプリしていける。ひいては、それが日本の課題感を解消していくきっかけになるかもしれない。そんなことにチャレンジしていければ、これほど面白みのある仕事はないと思うんですよね。

ENTRY